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デッサンのすすめ

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時代の変化についていく力(実力)=実技力

当予備校には、毎年、社会人の方も通っておられます。その目的には2種類あって、美大を受け直すため、と、「絵の基礎を学びたい」、というものです。仕事で絵や図を使う時に、なんだか思うように上手く描けなくて困る、だから、デッサンを学び直したい、と考えられるようです。

実技力がある人とない人ではっきり差が出るのは、ここなのだと思います。デッサンなどの基礎訓練を充分積まなかった場合、いつもこう感じます。

『なんだか自分の絵に自信が持てない…。』

自信があるかどうかなんて、たいしたことじゃないように思えます。自信なんかなくてもとりあえずやってしまえば意外となんとかなるものです。でも、今までやったこともない新しい仕事を自分の力で一からやらなければならなくなった時、自信のない人は『自分には無理』と言って、新しい仕事を避けて通ります。

子供が将来なりたい職業ランキングに登場するほど注目を浴びているYouTuber。少し前までこの職業は存在しませんでした。昔あって今はもうない職業がたくさんあるように、仕事というものはその時代ごとに生まれては消え、変化していきます。今自分がやっている仕事がこの先ずっとあるとも限りません。そうなった時、人は変化を求められます。変化しなければ生き残れません。そういう節目に直面させられた時、自分を救うのが『自信』だと思います。『実力』とも言いかえられます。何がきても何でも描ける、と思っている人なら、やったことのない仕事にもどんどん挑戦していくでしょう。

美術予備校、という仕事に携わってきて今思うのは、『いい仕事だなあ。』です。アーティストやデザイナーたちのように世の中の最前線で活躍する仕事ではありません。美大に入ったら本格的に美術の道を歩み始めたと言えるかもしれませんが、美大に合格する前の、まだ何者でもない若い人たちが、夢を描いて基礎練習に励む場所です。でも、今最高にクリエイティブな仕事をしている人たちも、もとはここから巣立って行ったし、デッサンの鍛錬に明け暮れる日々を重ねて、本物の基礎力を培ったのです。人が創造的に生き始めた、はじまりの場所です。世の中にクリエイティブな活動が絶えず供給されていくための源泉のひとつを、この場所が担っているのだ、と感じています。デッサンしていると時間の感覚がなくなって、無になります。意識が冴えわたりリラックスしていきます。そして新しい創造が溢れだします。美術予備校は最高にクリエイティブな場所です。

 

土美流デッサンのすすめ

その1.パソコンで絵が描ける時代になったから、デッサン力はもういらない!?

電卓・Excelなど自動で複雑な計算をしてくれる機器がある現代、暗算できなくても計算が苦手でも

何の不自由もありません。漢字を忘れてしまっても、入力すれば変換してくれます。

だったら、絵が描けなくてもペイント系ソフトを使いこなせたら何とかなるし、かっこいいおしゃれな絵

やデザインを自分で作り出せますよね。

web (文字や画像、動画、音楽などを簡単に利用することが出来るシステム)が世界を席巻したこの

時代、誰もがクリエイティブな仕事をできるようになったと言えます。

ただここで、ひとつだけ、見落としてはならない点があるのです。

その2.どんなに時代が変わっても、人の心は変わらない。

人が自分の想像力そして創造力を発揮しようとする時、無意識に邪魔をして閉じ込めようとする

ものがあります。それは、『劣等感』です。

とってもいいアイディアを思いついたのに、自信がなくて「やっぱり無理だ」とひっこめてしまった

こと、ありませんか?

計算や読み書きと、絵などの芸術活動との決定的な違いは、創造性を扱うかどうかにあります。

(※創造性=新奇で独自かつ生産的な発想を考え出すこと、またはその能力。)

この創造性は、心の動きにとても敏感な分野なのです。

絵を描く上で、技術やセンスが重要視される中、この心理的要素が深く関わっていることは

あまり語られてこなかったように思います。

自分の絵に劣等感を持っていると、創造力は閉じ込められます。

自己肯定感を持っていると創造力は自然と発揮されるようになります。

つまり、「自分に自信を持つ」ことによって、クリエイティブな能力が高まるのです。

その3.自分に自信をつけるための確実な方法。     それがデッサン。

パソコンを使いこなしてかっこいい絵が描けたとします。でも、周りを見るともっと上手い

絵を描く人がいて、途端に焦燥感に駆られます。「なぜか自分の絵に自信が持てない。

何か足りない。」そう感じたとしたら、足りないのはデッサン力です。

人はとても正直な生き物なので、他人に嘘はつけても、自分にはつけません。

自分が描いたこのかっこいい絵は、本当は自分が描いた絵じゃない。パソコンが描いた絵だ、

とわかってしまうのです。それが劣等感や焦燥感の正体です。

 

 

なぜ、デッサン力をつけると自信がつくかというと、客観的に上手くなって他人からも褒められるし

自分自身でも満足感を得られるからですが、もうひとつ重要なのは、デッサンが本当に上手くなる

ためにはたくさんの時間とエネルギーが必要だからです。

人間不思議なもので、自分が必死になって得た成果にはとても価値を感じます。

初めてバイトしてもらった給料は大事に使おうと考えますが、宝くじなどで棚からぼた餅で得たお金

はたいてい散財してしまうのはそのためです。

パソコンの力で描いた絵は素晴らしいですが、人の手間を省いてしまいます。

デッサンはアナログな道具で、人の手がひとつひとつ紡ぎ出す一切のごまかしがきかない絵です。

だからは人は、血のにじむような努力の結果得た、自分のデッサン力にゆるぎない自信とパワーを

感じるのです。

(※デジタル画を否定しているわけではありません。デザイン広告・ゲーム・アニメ・マンガ

などの表現が、デジタル画によってクオリティーの高い作品へと変貌していることは周知の

事実です。パソコンで絵を描こうとすれば、レイヤーを何枚も重ねたりして、その工程には多大な

時間と労力がかかります。決して楽でも簡単でもありません。

でも、デッサンという絵の基礎を訓練しないままパソコンで絵を描こうとすると、立体感、光と影、

パース、質感あたりで行き詰ると思います。

上手な人の絵を真似したり、トレースしたりすれば、とりあえず一時しのぎにはなりますが、

根本的な理論や技術がわかっていない限り、別の絵になるとまたどうしたらいいのかわからない、

という繰り返しが起こります。

自分の頭の中のイメージを、自分一人の力で自由に再現することができないという「劣等感」

は消えません。)

 

その4.デッサンは誰でも学べる、身につけられる。

デッサン力をつけるのは大変(=だから価値がある)、という話をしたばかりで矛盾している

ようですが、初心者の方にデッサンを強くおすすめする理由は、迷わずにすむからです。

①昔からの伝統的な方法が確立されているし、

②デッサンを教えられる指導者に必ず出会えるし、

③算数のテストのように客観的に点数がついて誰が見ても公平で納得のいくもので、

④その上、古今東西世界共通で普遍性を持っている一生使える技術だからです。

少し詳しく説明します。

 

①絵が上手くなるためには、センスを磨くとか独創的な発想をするとか言う場合が

あります。でも、どうしたらそれができるようになるでしょう。方法は様々ですし、

人によって目指す絵も違います。方法がひとつじゃなくて決まっていないから、

初心者の人はどこから手をつけたらいいかわかりません。

わからないから焦るばかりで本当の力がつかない。

でも、デッサン力をつける方法は伝統的な方法として確立されています。

昔からある代表的なものは例えば石膏像をデッサンする方法です。

だから迷わず進んでいけます。

 

②絵が上手くなりたい場合、信頼できる師(指導者、先生)を見つけるのが、結局

近道のように思います。昔の人が、師匠のもとに弟子入りしていたのは、やはり

それが上達しやすいからという知恵だと思います。

デッサン力って何かというと、今まで見えていなかったものが見えるようになる力、

今まで無意識だったものを意識できるようになる力、が根本にあります。

人は成長して精神的に成熟していく中で、視野が広がったり発想が柔軟になったり

して、昔できなかったことが自然とひとりでにできるようになっていくものですが、

一人で考え込んでいても、同じ見方しか出てこないことが多いと思います。

自分と違う他人と交流することで初めて新しい物を発見できる。

もうすでにできるようになった人から助言されたり、実際にやっている所を

見せてもらうことで、どんどん新しい世界が開けてくるものです。

デッサンに関しては、デッサン力をすでに身につけて、美術芸術関係の仕事をして

生きている人たちがたくさんいます。その中で絵の講師をしている先輩たちが

一定数存在します。デッサンを教えてくれる頼もしい味方が、進むべき方向を

教えてくれます。

 

③『計算や読み書きと、絵などの芸術活動との決定的な違いは、創造性を扱うか

どうかにあります。』と先に書きましたが、デッサンは、両方の性質を持っています。

つまり、計算や読み書きのように、正解不正解をはっきり判別できる性質(客観性)と、

絵など芸術のように、個人の好みや流行りによって評価がころころ変わって、

これが正解といえるものを決めにくい性質(主観性)です。

 

巨匠と呼ばれる画家が描いた油絵はどこがすごいのかよくわからないけど、

デッサンは誰が見ても、上手い下手がわかる、という性質があるので、わかりやすい。

わかりやすいから、どこを改善すればもっと正解に近づくのかわかって迷いません。

 

④『黄金比』という言葉を聞いたことがあるかと思います。

約5:8の安定的で美しい比率のことで、人類が最も美しいと感じる比率だそうです。

黄金比を使ったものには、パルテノン神殿、ミロのヴィーナス、名刺などのカード類、

郵便はがき、Appleのロゴなどがあります。

もともと、花びら、葉など自然界にあるものがこの比率なので、人が親しみと安心感を

覚えるのはもっともだと思います。

絵を見ていても、安定感や心地良さを感じる絵と、何か違和感を感じる絵があります。

巨匠の絵にはよくわからないけど心地良さを感じるし、売れている作家さんの絵に

違和感を感じることもある。原因は人体の胴と手足の比率が心地良くないのだなと

思ったりする。

こういう感覚は誰でも持っていて、絵を見たりデッサンしたりしている内に自然と

養われてくるものだと思います。

昔の人も今の人も共通して感じる美しさの感覚です。

絵を職業として生きていく場合、その時代時代に求められている世間の好みに

合う物を生み出して初めて、人の役に立てたり必要とされたりします。

でも、そういった流行を読み取って取り入れていく感覚を持ちながら、同時に、

人類が心地良いと感じる普遍的なものを生み出していけば、作品は

永い間人から愛されるものになると思います。

デッサンの鍛錬によって磨かれたその感覚は、生涯にわたって、

その人を助け続けるでしょう。

迷ったとしても、その感覚がいつも自分が行くべき方向を指し示してくれるでしょう。

 

5.デッサン力を身につけるなら、高校時代が最適。

なぜ高校時代かというと、単純に、美大に入ってしまうと基礎的なデッサンはしないからです。

美大に入ると絵が上手くなれるわけではなく、十分上手くなっているとみなされた人から

合格していきます。

ただ、少子化の現在、入試の評価基準は多様化してきていて、学科が重視される傾向にあります。

学科も大切です。絵の表現をして終わりではなく、自分の絵や作品をどうプレゼンテーションして

世の中に受け入れられるかという情報伝達まで一貫してできるようになるためです。

受験生はやることがいっぱいです。あれもこれもやらなきゃ、と自分を見失うこともあるかも

しれません。

でも、迷った時はいつでもデッサンに立ち返ってほしいと思います。

急がば回れ。

迷って結局たどりつけないルートではなく、時間がかかって手間でも、

迷わず必ずたどり着けるルートを、あなたはもう知っています。

 

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